近森会グループからのメッセージ message

理事長のひとりごと

理事長のひとりごと

五台山ミニ八十八ヵ所巡り

五台山は古くは浦戸湾に浮かぶ大島であった(※因みに浦戸湾七島は「大島」、葛島、田辺島、比島、洞ヶ島、竹島、玉島で、現在は玉島だけが湾内にある)。江戸後期文政2年(1819年)、四国八十八カ所のご本尊が、ここ五台山の岩陰や木立のそばに石仏として祀られ、その石仏を巡るおよそ10㌔に及ぶ遍路道がいまものこっている。ここを一巡すると、四国八十八カ所を全部回ったと同じご利益を授かるというので、ミニ八十八カ所巡りを開始。インターネットで調べてみたが詳細な地図が見つからなかったので、ぶっつけ本番で歩き始めた。

五台山は一方通行の観光道路だけでなく、竹林寺(※四国霊場第31番札所)へ向かう遍路道もあるし、南斜面では神社やお墓、竹林が多く、神社への参道が麓からまっすぐ石段として上がっており、お墓参りや筍採りで無数の道に分かれている。北斜面はスモモやみかんの果樹園が多く、農作業に向かう農道やモノレール、果樹園の中はとくに道が分かりにくい。

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19番 立江寺 延命地蔵菩薩

それでも石仏の下には札所の番号とお寺の名前、ご本尊、御真言だけでなく簡単な手書きの地図もあり、それを参考に次の石仏に辿り着けるようになっている。最初は、竹林寺から東の五台山南麓を巡り、竹林寺、牧野植物園を越えて北麓を巡る比較的楽なコースのように思えたが、それこそ石仏を目指して斜面を上がったり下がったり、山あり谷ありで、「もう少しフラットなコースに石仏を配置していただければ有難い・・・」と思うほどであった。

山道は網の目のように四方八方に通じているが、分かれ道と遍路道の途中には赤のテープで印をつけてくれており、それを目安に安心して進んでいくことができた。それでも8番熊谷寺くまだにじと9番法輪寺への分かれ道はなだらかで気持ちの良い竹林の途中にあり、ついうっかり見落としてしまったし、15番国分寺では道の右側に石仏がおられるのに左側の根っこから倒れた倒木に気を取られて通り過ぎてしまい、かなりの道を引き返すこととなった。

倒木と右手15番 国分寺 薬師如来.jpg
倒木と右手15番 国分寺 薬師如来

27番こうのみね寺の次は28番大日寺がある筈だと思い込み、牧野植物園の温室の上の丘(※この丘は「結網山けつもうざん」と呼ばれている。牧野富太郎博士の業績を顕彰する「牧野植物園」の南に位置する。結網は博士の用いた号に因む)を歩き回ったり、73番しゅっ釈迦寺しゃかじでは、スモモ園のモノレールで老夫婦が降りて行かれたのに気を取られ、サインを見落として深い谷底に降りてしまった。78番ごう照寺しょうじでは急な登りで足元ばかり見て歩いていたためか、道の横におられる石仏に気付かずに通り過ぎてしまった。

アップダウンの激しい人生さながらに、弘法大師に導かれ、88番大窪寺おおくぼじでの結願に向けて歩き続けることが出来た。思い込みやうっかり、楽勝のときや苦難のときに、つい判断を間違えた自分を見つめ直すいい機会をいただいたように思う。

それでも歩き慣れてくると、大事な分かれ道や石仏のおられる手前には赤や白の長めのビニールテープを束にして目印にしてくれていることが分かってきたし、石仏の赤い前掛がなによりも目立つので石仏を見つけやすくなった。

石仏の前で手を合わせ御真言の「のうぼう あきゃしゃ きゃらばや おん ありきゃ まり ぼり そわか」を大声で唱え、心を込めて祈りながら石仏ひとつひとつを巡ることができるようになった。

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55番 南光坊 大通知勝如来

55番南光坊なんこうぼう(※大山祇おおやまづみ神社の別宮として創建されたため、ここだけ寺ではなく「坊」という) 大通知勝如来や、64番まえ神寺がみじの阿弥陀如来は、大きな岩と釈迦が亡くなった所にあったという沙羅さら双樹のような樹木に守られて安らかに佇まれている。

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74番 甲山寺 薬師如来

後半疲れがたまった頃、74番甲山寺 薬師如来では樹木の間から後光が差し込み、神々しい御仏に巡り会った思いがした。86番志度寺しどじ 十一面観世音菩薩はこのミニ八十八カ所巡りの中で最も景色が良く、香長平野の田園が広がり、北山の緑が美しいところである。

79番高照院 十一面観世音菩薩は、78番ごう照寺しょうじ、77番道隆寺からの地図が分かりにくいうえに、大岩と竹林に阻まれ石仏が見つけにくく、途中でお会いした女性三人組も79番だけは辿り着けなかったと残念がっていた。唯一、おいたわしい石仏は67番大興寺だいこうじ 薬師如来で、スモモ園のパイプ棚で胴体を挟まれながらも静かに佇まれている。

この五台山ミニ八十八カ所巡りは、SNSで見ると案内人をリーダーに、グループで回ることが多いようだが、今回、弘法大師と同行二人で回ったことでこれまでの人生を振り返り、これからの人生に思いを馳せることができたように思う。

人生は大きな目標に向かって歩まないといけないし、その時その時の状況の変化で色々なトラブルが起こってくるが、それを乗り越えながら目標を忘れることなく歩み続けていかねばならないのだろう。

近森 正幸

※こちらは『おじちゃんの徒然草 その伍』に寄稿したものです。