相談役 近森正幸のドキュメント document

相談役 近森正幸のドキュメント

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『チーム医療の理論と実践』 ~必要な患者すべてに必要なサービスを提供するためのチーム医療を考えてみよう~

社会医療法人近森会
理事長 近森 正幸

はじめに

日本の医療界ではチーム医療というと、各部署で業務を行っている多職種が週に1回病棟に集まりカンファレンスですり合わせをして情報共有するチーム医療のみがチーム医療と認識されているが、医師をはじめとした多職種が同一時間に集まらないといけないし、カンファレンスですり合わせして情報共有するため時間もかかり処理患者数が限られる。その為、このタイプのチーム医療は限られたリスクの高い患者に対する質の高いチーム医療になるが、高齢患者の多くが必要とするリハビリや栄養サポートには対応できない。

一方、簡単な褥瘡対策のように看護師が受け持ちの患者の褥瘡リスクを標準化された評価表でチェックし、その褥瘡リスクに応じてマットレスやエアーマットを入れる効率的なチーム医療もある。この簡単な褥瘡対策で褥瘡の発生率は3%以内となり、発赤やビランにとどまっており、全入院患者に対応するアウトカムの出る立派なチーム医療になっている。評価表はカンファレンスが開かれることもなく、電子カルテにスキャンするか、紙カルテに綴じられることで情報共有されている。

今回は、近森病院で行っているチーム医療の理論と実践について述べ、必要な患者すべてに必要なサービスを提供する効率的で質が高くアウトカムの出るチーム医療について考えてみたい。

チーム医療の理解のために

(1)チーム医療の基本的な考え方
 日本の医療の特徴は国民皆保険と自由開業医制で、国民皆保険は多くの国民に効率よく医療を提供しないといけないし、自由開業医制は医療の質が高くなければ患者が来てくれない。膨大な業務を質高く効率的に処理しないといけないが、医療の質を上げればコストは高くなるし、効率的に処理すれば質は下がり患者が来てくれない。
 その為患者の状態で分けると、リスクが高い患者には質の高いチーム医療を提供し、リスクが低い患者には効率的なチーム医療を提供して、リスクに応じて対応するチーム医療を組み合わすことが必要になる。
 業務で分けると、判断が不要なルーチン業務と常に判断が必要な非ルーチン業務に分けることができる。ルーチン業務は業務を標準化して主に医師以外の医療専門職が行う安全確実な膨大な業務で、透析技士が行う透析のセッティングなどがこれに当る。一方の非ルーチン業務は常にplan、do、seeをくり返す主に医師、一部看護師が行う高度な少数の業務で、診断や治療、手術、看護といったプロフェッショナル業務がこれに当る。
 よくある話であるが、医師の業務を医療専門職に委譲するとき「医療専門職に業務をさせると失敗した時、責任は俺がとらんといかん」という医師の怒りの発言が聞かれるが、医療専門職に委譲する業務はルーチン業務であり、膨大な業務を安全確実にでき、医師が行うよりルーチン業務を身体にたたきこんでいる医療専門職が行った方がはるかにトラブルが少ないことが分かっていない。各医療専門職は委譲された業務では主役であり、チームで行うことで医師、看護師はコア業務に専念することが出来、医師、看護師ばかりでなく多職種も労働環境の改善といきいきと働くやりがいを高めることができる。現在話題になっている「医師の働き方改革」も医師の業務をコア業務に絞り込み、自律、自働する多職種による病棟常駐型チーム医療を行わないと根源的な解決にはならないと考えている。

(2)形式知と暗黙知
 形式知とは、人に言葉などで説明が可能な知識で言葉や文章、絵、数値などにより表現でき、他人に説明が可能な伝えやすい知識をいい、質は低いが、効率的な情報共有となる。
 一方暗黙知とは人に言葉などでは伝えることが出来ない知識で、具体的に表現して他人に伝えることが難しい熟練やノウハウなどの行動スキル、信念や視点といった思考スキルの知識をいい、非効率だが質の高い情報共有となる。
 簡単に言えばスマホに入っている知識は形式知で、分厚い本やカンファレンスですり合わせして得られる知識が暗黙知であり、看護師がよく使う「患者特性」という視点も暗黙知になる。
 当然、患者を診てあらゆることを考え得られる専門性の高い知識も暗黙知であり、暗黙知の結論の形式知で電子カルテに載せるか、一言、二言の情報交換で情報共有すれば効率的で質の高い情報共有となる。

チーム医療は働きやすい仕組み作り

製造業においてはトヨタのかんばん方式で代表されるように均一化された「物」相手なので、部品をベルトコンベアーで流すだけで製品という同じ結果を出すことができる。

医療はよく複雑系と言われるが業務まで落とし込むとひとつひとつの業務の連なり(ベルトコンベアー)に過ぎない。病院のようなサービス業は均一化されていない「人」相手なので、単純にベルトコンベアーで流しても同じ結果が出ない。その為、病院で同じアウトカムを出すためにはベルトコンベアーではない他の仕組みを考える必要が出てくる。

近森病院ではひとりひとりが違っている患者に対し、「フレーム」(枠組み)という概念で急性期のチーム医療を構築し良好なアウトカムを出している。具体的には自律、自働する多職種を病棟に常駐させ、電子カルテで情報共有し、必要な患者すべてに必要な業務をリアルタイムに提供している。

急性期医療のチーム医療の概念

医師、看護師はコア業務に絞り込み、プロフェッショナル業務を行い、医師、看護師の業務で標準化できる定型的業務は医療専門職に権限を委譲し代替し、ルーチン業務を行う医療専門職が医師、看護師の業務を支えている。これらを支える仕組みが「フレーム」になる。

医師、看護師の力量によりズレ、ユガミが生じるが膨大な業務を安全確実にできるルーチン業務を最大限にすれば医師、看護師の業務はプロフェッショナルなコア業務に絞り込まれ、ズレ、ユガミが少なくなり、ルーチン業務を行う医療専門職に支えられ良好なアウトカムを出すことが出来る。患者はそれぞれに合ったフレームに乗って最適なチーム医療を受け、退院することが出来る(図1)。

(図1)急性期医療のチーム医療の概念

伝統的病院のチーム医療と病棟常駐型チーム医療の構造と視点の相違

(1)伝統的病院の看護は「入れ子構造」であり、優秀な看護師が個々の患者の「患者特性」(暗黙知)を看護判断し病棟業務の多彩な業務に対応している。看護師が病棟業務のすべてを行っている為、業務の切り分けは困難で痛みを伴う。多職種はそれぞれの部署で医師の指示のもと業務を行っており、入れ子構造の外側の部分(黄色で表示)に当る(図2)。現実的には病棟常駐型チーム医療への移行中の病院も多い為、中間的な構造をとっている病院も多い。 (図2)伝統的病院の看護の構造と視点
 多職種は各部署で業務を行い病棟で患者を診ていないし、暗黙知なので医師に依存して(もたれて)カンファレンスで時間をかけてすり合わせして情報共有をせざるを得ない(もたれあい型チーム医療)。その為、リスクの高い限られた患者に対する質の高いチーム医療になる。看護の質は高いがアウトカムが出ないため全体の医療の質と労働生産性は低く、人件費は相対的に高くなる。予定入院や予定手術の業務量の少ないヘルシーペイシェント相手の病棟でしか対応できない。

(2)病棟常駐型チーム医療は「モジュール構造」で、個々の患者のマネジメントをしている看護から標準化できる「業務」を医療専門職に代替し、定型的ルーチン業務で支えている(図3)。医療専門職への業務の置き換えだけなのでスムーズに移行することができ、病棟内で自律、自働しモジュール構造内で業務を行っている(茶色で表示)。 (図3)病棟常駐型チーム医療の構造と視点
 多職種は病棟に常駐し患者を診ているし、形式知なので電子カルテに載せるか、一言、二言の情報交換だけで 、レゴブロックを組み合わすように 情報共有することが出来る (レゴ型チーム医療)。 病棟に常にいて、情報共有にも時間がかからず、自律、自働し、必要な患者すべてに必要なサービスが提供できることから効率的なチーム医療になる。 さらには、 医療専門職が 患者を診て、判断し、介入することで レゴに 内包する暗黙知が 蓄積され 、 専門性が 高まり 効率的で良質なチーム医療になる( 高度レゴ型チーム医療) 。 医師、看護師ばかりでなく医療専門職もコア業務に絞り込んで業務を行うので、医療の質と労働生産性は高く患者が増え単価が上がり売り上げが上がることで多くのスタッフを投入しても相対的に人件費率は低くなる。 緊急入院や緊急手術の業務量の多い病棟でも対応可能で、現在の医療の高度化と高齢患者の増加には業務量が膨大となり病棟常駐型チーム医療でしか対応できない。

情報共有の仕方によるチーム医療

(1)インテグラル型チーム医療
 暗黙知なのでカンファレンスですり合わせをして情報共有するインテグラル型(すり合わせ型)チーム医療は、カンファレンスで医師に依存している(もたれている)ため、質の高いチーム医療となり、当院では「もたれあい型チーム医療」と呼んでいる。

(2)モジュール型チーム医療
 形式知なので電子カルテに載せるか一言、二言の情報交換だけで情報共有するモジュール型(組合せ型)チーム医療は、自律、自働している部分(暗黙知)はレゴに内包されており、表面だけが標準化、共通化され、レゴブロックをカチッと結合するような情報共有であるため、効率的なチーム医療となり、当院では「レゴ型チーム医療」と呼んでいる。各医療専門職の患者を診て得られる専門性の高い知識(暗黙知)が高まることで専門性が上がり、効率的で良質な現在もっとも優れたチーム医療である「高度レゴ型チーム医療」になる。現在、多職種を病棟に常駐させ患者を診て判断し介入することを繰り返し、暗黙知を高めることで高度レゴ型チーム医療に進歩するよう日々努力している。

病棟常駐型チーム医療の複雑性、不確実性による変化

病棟常駐型チーム医療で患者の病状が変化し、高度の医療機器を装着したり、低栄養や廃用といった患者の複雑性が高くなる場合は多職種の職種の数が増えたり、各職種の業務量が増えたり減ったりして対応している。

一方患者の病状が刻々と変化し不確実性が高くなる場合は、医師、看護師のコア業務であるプロフェッショナル業務が増え、各職種のルーチン業務が部分的に減って対応している。

このように患者の状態の変化に応じてレゴのボリューム(業務量)と機能(新しいレゴ)を院長や部長の指示なしで自律、自働する多職種が自動的に対応、患者のニーズに最もあったフレームに変化し医師、看護師の到達目標を最大限にサポートしている。言い換えると患者はフレームのいろいろの乗り物に乗り、多職種は自律、自働し患者の必要に応じてサポートを行い、よりよいアウトカムが出るような仕組みが当院の病棟常駐型チーム医療になる(図4)。

(図4)病棟常駐型チーム医療の複雑性、不確実性による変化

情報共有の仕方

情報共有の仕方は医療専門職が自律、自働しているか、時間的、空間的に同一性が必要かどうかにより分類される。

(1)もたれあい型チーム医療の情報共有の仕方
 医師と多職種がカンファレンスで暗黙知をすり合わせして情報共有しており、多職種はそれぞれの部署で医師の指示のもと患者を診ずに業務を行い、自律、自働していないので接する面は大きい(図5、茶色で表示)。暗黙知をすり合わせて情報共有しているため、ICT時代以前の情報共有といえる。

(図5)情報共有の仕方

(2)レゴ型チーム医療の情報共有の仕方
 電子カルテに載せるか、一言、二言の情報交換で形式知を情報共有しており、ICT時代の情報共有といえる。病棟や外来など時間的、空間的同一性が必要ない場合(Aタイプ)と手術室や内視鏡室、カテ室のように時間的、空間的同一性が必要な場合(B-Ⅰタイプ)の2つのタイプに分けられる。
 同一性が必要ないAタイプの情報共有では、医師と多職種は自律、自働し、電子カルテという「接点」で一方向性に形式知を情報交換し、情報共有している。
 同一性が必要なB-Ⅰタイプの情報共有では、医師と多職種は自律、自働し、同一の時間と空間で双方向性に形式知を情報交換し、情報共有しているので「包接」されている(図6)。
 各医療専門職が患者を診て、判断し、介入することで医療専門職の専門性が高まり、暗黙知が蓄積され、暗黙知の結論である形式知で情報共有すれば効率的で良質な情報共有となり、高度レゴ型チーム医療になる。

(図6)情報共有の仕方

(3)回復期リハビリの情報共有の仕方
 回復期リハビリの場合は地域へ帰すという標準化されたニーズばかりでなく、標準化されないウォンツの強い生活が目標なので多職種とのすり合わせがどうしても必要になる。医師と多職種は同一の時間と空間で双方向性にカンファレンスですり合わせして情報共有しているが、自律、自働しているので接する面はもたれあい型チーム医療に比べ、はるかに小さくなる(図7、こげ茶で表示)。 (図7)回復期リハビリの情報共有の仕方
 将来、回復期リハに完成されたロボットが導入されると障害が標準化(一律化)され、レゴ型のカンファレンスのないAタイプの情報共有に変化すると考えられる。

医師、看護師業務の多職種による代替

近森病院では長い時間をかけ、医師、看護師業務を病棟だけでなく、多くの職場で多職種に代替し、チーム医療を行って来た。

(1)外来では医師、看護師、事務のみであったがクラーク、秘書、ポーターを導入、外来業務のほとんどをクラークに委譲している。そのため看護師は内科外来でも数名で採血や注射、処置ばかりでなく、医学的説明は医師に代わって行い、事務的な説明はクラークが行っている。医師の電子カルテへの入力は秘書、クラークが行っている。

(2)ER では従来は医師、看護師だけであったが研修医がファーストタッチを行うようになり、看護師の業務を見直し、救急救命士やクラーク、ポーターが業務を代替している。

(3)手術室では医師、看護師ばかりでなく、麻酔医をサポートする麻酔補助看護師を育成する特定行為研修を開始しているし、滅菌やセットを組む助手が入っている。

(4)心カテ室は循環器科の医師とともに心カテの直接介助を行う臨床工学技士(CSチーム)やモニターを一手に引き受け、デジタル画像を読み、カテをサポートしている臨床検査技師が参加し、全体を統括する医師と心カテ操作する医師、外回りの看護師、放科の機械を操作する技師、カテ介助の臨床工学技士、モニター担当の臨床検査技師の6名のチームがウィークデイの昼間も夜間、休日も心カテを行っている。常時医師2名と多職種との6名のチームで行うので、質も生産性も高くなる。

(5)内視鏡センターは医師、看護師、放科技師に臨床検査技師が参加し、患者の観察やサポートを行う看護師から内視鏡業務のほとんどの業務を代替して活躍している。

(6)重症病棟には医師、看護師ばかりでなく多職種が病棟常駐し、リハビリを行うリハスタッフ(PT、OT、ST)、栄養サポートの管理栄養士、薬剤の薬剤師、IABPや人工心肺、呼吸器を操作する臨床工学技士(急性期チーム)はウィーニングも医師に代わり行っている。血液浄化法や血漿交換療法は臨床工学技士(透析チーム)が担当している。それ以外にも重症病棟に入院した重症患者にMSWが24時間以内に介入しているし、クラークやアテンダント、ポーターも頑張っている。

(7)一般病棟は臨床工学技士(急性期チーム)を除く、すべての医療専門職が病棟に常駐しているので、一般病棟でも病棟常駐型チーム医療を展開している。

おわりに

21世紀の急性期病院においては、医療の高度化と高齢患者の増大により、業務の質と量が膨大となり、医師、看護師だけで医療を行うことは不可能になり、多くの医療専門職が病棟に常駐し、それぞれの視点で患者を診、判断し、患者に介入して自律、自働することが求められている。そのため、多職種による多数精鋭の病棟常駐型チーム医療が行われ、医師、看護師から周辺業務を委譲されることで、医師、看護師の業務はさらに絞り込まれ、医師は診断、治療に専念できるようになり、看護師も看護に専念できるようになった。医療専門職は専門性を高め自律、自働し業務を行うことで、その専門領域では主役であり、いきいきとやりがいをもって働くことができるようになっている。診療業務を行っている医師、看護師ばかりでなく、薬剤師、リハスタッフ、管理栄養士、臨床工学技士、メディカルソーシャルワーカー、歯科衛生士、さらには臨床検査技師、放射線技師に至るまで、みんなが患者さんに早くよくなってもらおうと心をひとつにして働く、みんなが平等で独立している、そんなフラットな組織が21世紀の労働集約型医療サービス業の病院には求められている。