麻酔科

部長 / 楠目祥雄

■活動状況

 2015年、特に当科の人事はありませんでした。即ち、この1年間は3名の常勤医と院内痛みのクリニック科の須賀 太郎先生、ERの山本 賢太郎先生、そして外部からの昭和大学横浜市北部病院麻酔科 小坂 誠教授をはじめ多くの先生方のご助力で手術麻酔を管理してきました。

 近森病院の拡張5ヶ年計画は既に完成を迎えて、院内の運用も完全に軌道に乗り、後半からは手術件数も着実に増加しました。2015年の手術室管理総手術症例数(中央手術室以外で行われても、手術室看護師が関与したものを含める)は3419例で、前年比255例(8.1%)増、麻酔科管理症例は2091例で、前年比152例(8.3%)増でした。前述の通り、増加分はほとんど年後半の分であり、2016年はさらに増加することが予想されます。麻酔科管理2091例の内訳は別表に示しますが、その特徴を以下にまとめます。

  1. 全身麻酔が2015例で当科全管理手術麻酔全体の約96%を占め、これはここ数年の傾向と変わりありません。当院では「脊髄くも膜下麻酔(いわゆる腰椎麻酔、半身麻酔)の適応となりにくい人工透析、重症心疾患、糖尿病、意識障害、認知障害、精神障害等の合併症例が大変多いこと」、「抗血小板薬常用の準緊急手術患者が大変多いこと」、「麻酔科医の人員不足があり、脊髄くも膜下麻酔のうち低リスクのものの多くを手術担当科(主に整形外科)で行ってもらっていること」などが原因となっています。
  2. 上記と同様の理由で全身麻酔に硬膜外麻酔を併用する症例が大変少なくなりましたが、その代わりに、全身麻酔に伝達麻酔(エコーガイド下末梢神経ブロック)を併用する症例がさらに増加しました。全身麻酔のうち89例(4.4%)に硬膜外麻酔を、764例(37.9%)に伝達麻酔を併用しました。伝達麻酔は出血や感染に伴うリスクが少なく、硬膜外麻酔の適応にならない症例でも大きな問題なく施行できること、そして神経ブロック用の解像度の高い超音波エコー装置が導入されたことが大きな要因となっています。さらに全身麻酔自体が大きなリスクとなるような重症心疾患等の超ハイリスク症例46件においては、伝達麻酔単独で或いは最近保険適応となったプレセデックス®による鎮静を併用して管理しました。

  3. 176例の開心術(開胸胸部大動脈置換術25例を含む)を管理しました。当科では、2000年の心臓血管外科開設当初からFast Track Method(術後早期回復を目指した麻酔法)を取り入れるなど、良好な手術成績(心臓血管外科ページ参照)に永く貢献しています。

    また、この領域で特筆すべき事は、当院がTAVI(経皮的大動脈弁植え込み術)の治療施設に認定され、2014年12月末に行われた最初の1例(県内初症例)以来、2015年には39例が全て成功裏に施行されたことです。TAVIは各科各部署の連携が大変重要な治療方法ですが、近森の鉄壁のチームワークがここでも活かされ、当科もその一員として活躍しております。因みに、計40例のTAVIの内訳は、TF(経大腿アプローチ)が27例、TA(経心尖アプローチ)が13例でした。

  4. 緊急手術麻酔症例は294例で、全麻酔科管理症例のうちの約14%でした。当院は高知県の救急医療の拠点病院のひとつであり(救命救急センター指定)、頭蓋内出血、大血管破裂、急性冠症候群、急性腹症、開放骨折など、緊急手術を必要とする症例を多く受け入れています。

  5. 麻酔科管理症例の半数以上が術前麻酔リスク評価で高リスク(ASA-PS 3以上)でした。当院は地域医療支援病院であり、そしてER、ICU、内科各科の充実により循環器疾患を初めとするリスクの高い合併症を有する手術症例が他施設からの紹介を含めて数多く搬送されてきております。

  6. 超高齢者(86歳以上)の症例が264例と全体の約13%ありました。高齢者が多いのは本県自体の特性でもありますが、当院がリハビリ病院をグループ内に併設し、さらには精神科も充実している地域医療支援病院ということで、多くの高齢者の骨折症例(特に大腿骨頸部・転子部骨折)が集まってきているということが、特に大きな要因です。

 これらに対して当科は上述のメンバーで上記のすべての症例を大過なく管理してきております。ひとえに理事長はじめ病院経営陣のご理解、さらには周りのスタッフのご協力の賜物です。当手術室には最新のモニター類などの医療機器が充実しており、重症疾患の管理に対応できています。また、これらの機器の保守管理・運用に急性期CE(臨床工学士)チームが積極的に関与してくれており、麻酔科医の大きな助けになっています。手術室看護師は多くの手術を途切れなく運用するのに十分な数が配置されておりますが、さらに麻酔科医専用に介助してくれる麻酔補助看護師の存在は、手術麻酔の安全・効率的な運用の大きな支えとなっております。

 さて、このように随分大変そうに見える麻酔科ですが、各科各部署のご協力や外部からの先生方のご支援を受けながら、日々の業務を極力平日日勤帯に集中させることにより、スタッフのON-OFFをはっきりさせることに大変心を砕いて参りましたので、忙しい中にあっても皆疲弊することなく、心穏やかに過ごしております。

 もしこの記事を見られている転勤希望の麻酔科医の先生方、或いはこれから麻酔科医を目指される研修医の先生方がおられましたら、是非当科への入職をお薦めしたいと思います。これから手術麻酔のスキルアップを図りたい若手の先生方にとっては、(特に心臓血管外科症例を中心に)ためになる症例が豊富です。また、少し仕事量をセーブしていきたいベテランの先生方や家庭をお持ちの女性の先生方に対してもそれぞれのご都合に合わせて十分な配慮をしております。2012年夏より広く明るくなった医局で、自由な空気のもとで頑張っていただける麻酔科の先生方のご加入を心からお待ちしております。見学も歓迎しております。お気軽にご連絡下さい。当科は、岡山大学麻酔科の関連施設であり、幾人かのスタッフの派遣を受けておりますが、職員枠はまだはるかに残されており、大学の医局に属する必要はありません(当院参加の麻酔科専門医研修プログラムも現在「岡山大学プログラム」のみですが、大学入局の必要はありません)。

 当院は2010年に社会医療法人、2011年には救命救急センターに認定されました。これらにより当院の公益性がさらに高まり、ますます我々麻酔科医の役割も大きくなってきました。当科ではなお一層気を引き締めて頑張っていく所存ですが、今後とも関係各部署の皆様方の変わらぬご支援ご協力を宜しくお願いいたします。

■表1 麻酔法別分類
全身麻酔 2015 吸入麻酔単独 919
全静脈麻酔(TIVA)単独 242
全身麻酔+硬・脊・伝 *1 854
区域麻酔 76 脊髄くも膜下麻酔(いわゆる腰椎麻酔) 30
硬膜外麻酔又は脊麻+硬麻(CSEA)*2 0
伝達麻酔 46
その他 0

*1:吸入麻酔と硬膜外、脊髄くも膜下、又は伝達麻酔の併用
*2:脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の併用

■表2 依頼科別分類

依頼科 外科 整形外科 形成外科 心外科 脳外科 泌尿器科 その他 合計
管理数 452 857 172 293 115 200 2 2091

1麻酔症例に複数の科が手術を行った場合は、主な担当科(主治医の科)のみ算定

■表3 年齢性別分類
年齢区別 1歳未満 1~5歳 6~18歳 19~65歳 66~85歳 86歳以上 合計
男性 0 8 69 396 516 77 1,066
女性 0 6 34 226 572 187 1,025
合計 0 14 103 622 1,088 264 2,091

 

■表4 麻酔リスク度(ASA-PS)別分類
ASA-PS 1 2 3 4 5-6 合計
管理数 241 656 894 6 0 1,797
ASA-PS 1E 2E 3E 4E 5E-6E 合計
管理数 45 71 141 36 1 294
合計 286 727 1,035 42 1 2,091

1:健常者
2:軽度の全身系統疾患を有する
3:重度の全身系統疾患を有する
4:常に生命を脅かすほどの重度の全身系統疾患を有する
5:瀕死の状態
6:脳死
E:緊急手術症例

■表5 手術部位別分類
脳神経・脳血管   心臓・血管   頭頚部・咽喉頭 91
 開頭術 66  on pump CABG 61 胸壁・腹壁・会陰 109
 穿頭術 13  off pump CABG 11 上腹部  
 血行再建術  16  先天性心疾患 2  非内視鏡手術 76
 血管内手術 12  弁膜症 112  内視鏡手術 111
胸腔・縦隔        うち、TAVI 39  経皮的手術 25
 非内視鏡手術 14  開胸大動脈瘤手術 25 下腹部  
 内視鏡手術 41  開腹大動脈瘤手術 34  非内視鏡手術 140
股関節・四肢    大動脈血管内手術 10  内視鏡手術 74
 骨・関節 790  末梢動脈手術 12  経尿道手術 145
 その他 76  その他の心臓手術 6 脊椎手術 18
合計 2,091例

1麻酔症例に複数の手術を行った場合は、主な手術のみ算定
 

■学会発表
名称 開催日 会場 演題名 発表者
日本麻酔科中国・四国支部 第52回学術集会 9月5日 岡山 他部位の外傷手術中に血胸が急性増悪した肝損傷による右横隔膜破裂の1例

社会医療法人 近森会
近森病院 麻酔科

  • 河野 宏之
  • 納庄 弘基
  • 楠目 祥雄

社会医療法人 近森会
近森病院 救命救急センター

  • 山本 賢太郎
日本心臓血管麻酔学会 第20回学術大会 10月9日 福岡 高用量レミフェンタニルとデクスメデトミジン塩酸塩を用いたTAVIの麻酔管理

社会医療法人 近森会
近森病院 麻酔科

  • 楠目 祥雄
  • 河野 宏之
  • 納庄 弘基

昭和大学横浜市北部病院
麻酔科

  • 小坂 誠
重症度の高い開心術に対する高容量レミフェンタニル麻酔の有用性の検討

社会医療法人 近森会
近森病院 麻酔科

  • 楠目 祥雄
  • 河野 宏之
  • 納庄 弘基

昭和大学横浜市北部病院
麻酔科

  • 小坂 誠