『臨床栄養』

『臨床栄養』Vol.122, No.1, 2013/通巻832号 掲載
P.26-31    医歯薬出版株式会社
2013年1月1日発行

管理栄養士の病棟常駐

-みんなの願望?時代の要請?-

近森 正幸

社会医療法人近森会 近森病院

院長・同NST Chairman

 

キーワード
管理栄養士、病棟常駐、病棟の医療専門職、多職種による多数精鋭のチーム
医療、労働集約型医療サービス業

 
はじめに
近森病院の栄養サポートチーム(以下、NST)は、宮澤靖管理栄養士(現 近森病院臨床栄養部部長兼栄養サポートセンター長)が近森病院に来てから2003年の7月から開始されました。当時の管理栄養士は4名で、一人が2~3病棟を掛け持ちして夜の10時、11時まで頑張っていましたが、充分な成果を上げることはできませんでした。
2006年の夏、充分な栄養サポートができない状況をなんとかしなければと考え、「一病棟一管理栄養士体制」にすべく、管理栄養士の増員を指示しました。ちょうどその年の4月には、近森病院はDPCによる一日包括払いを導入、10月には電子カルテも始まり、多職種による多数精鋭のチーム医療の基盤整備を進めることができた年でもありました。
2010年の春にはNSTラウンドを教育カンファレンスに切り替え、管理栄養士の質の向上に努め、2011年4月には2病棟1フロア3名常駐体制となり、管理栄養士は22名に増えています。これらにより、近森病院の栄養サポートはアウトカムの出るチーム医療となり、「病棟に管理栄養士がいないと困る時代」に入ったといえます。
近森病院のNST10年の歩みを振り返って分かることは、高齢社会となったことで、急性期病院の栄養サポートの業務量は膨大となり、医師、看護師中心のNSTでは処理しきれず、栄養のプロである管理栄養士を増やしてその質を上げ、効率的なチーム医療を展開しない限りアウトカムの出るNSTができないことを示しています。

時代が求める管理栄養士の自己変革
従来、急性期病院の医療は医師、看護師中心の少数精鋭の医療でしたが、1990年代半ばから2000年にかけて急性期医療は大きく変化し、多職種による多数精鋭のチーム医療にならざるを得なくなってきました。管理栄養士の仕事の場所と業務でその変化を見ると、昔は厨房で「食事」というモノを売っていたが、21世紀は病棟で栄養サポートすることで「早く元気になって自宅へ帰ってもらう」という付加価値を売るようになりました。このように業態が大きく変わったことで、管理栄養士も厨房の食事管理から病棟の患者の栄養管理へ、食事療法から栄養療法に変わり、もっと端的にいえば時代の変化が「厨房のまかないさん」から「病棟の医療専門職」へと、管理栄養士に大きく自己変革することを求めています。

チーム医療の変化
医師、看護師中心の少数精鋭の医療の時代(図1)は医師が患者を診て看護師に指示を出し、看護師は厨房や薬局に分かれて働いていた各職種に指示を出し、業務を行っていました。チーム医療の点数ができ、各病院でもチーム医療をせざるを得なくなり、この医療体制がそのまま医師中心のチーム医療となり、医師だけが医学的に患者を診て、各部署から病棟へ出てきた各職種に指示を出し、業務を行うように変わってきました。
多職種による多数精鋭のチーム医療(図2)は、多くの医療専門職が病棟に配属(常駐)され、医師を含めた各職種がそれぞれの視点で、たとえば管理栄養士であれば栄養学的に、薬剤師であれば薬学的に患者から情報を聞き、患者を診て、それぞれの判断で患者に直接介入するようになってきました。そのため医師中心のチーム医療に比べ、多職種による多数精鋭のチーム医療は多くの医療専門職が、それぞれの視点で全人的に患者を診て対応するため、医療の質も高く労働生産性も向上し、膨大な業務を質高く効率的に処理することができるようになっています。

出来高とDPCの発想の違い
多くの急性期病院のトップは、出来高払いの「人」はコストという固定概念から、「スタッフを増やすと人件費が増え赤字になる」という頑固な刷り込みがあり、売り上げの低いメディカルソーシャルワーカーや管理栄養士の増員に頑強に反対しています。しかし、時代はDPCによる一日包括払いとなり、急性期病院は労働集約型医療サービス業になり、付加価値を売るようになりました。DPCでは出来高と正反対に「モノ」がコストとなり、サービスを産み出す「人」が収益源といえます。膨大な業務を処理してアウトカムを出すためにはスタッフを増やさなければならないし、スタッフを増やして質を上げることで、医療の質も向上し売り上げも上がることを、経営の判断基準にしなければならない時代を迎えたといえます。

アウトカムが出せるチーム医療
医療専門職の質を上げるためには、各専門職のコア業務をさらに絞り込むことが求められます。管理栄養士であれば厨房の管理業務は外部委託し、臨床管理栄養士のコア業務である病棟での患者の栄養管理に業務を絞り込み、さらには重症病棟や循環器の病棟に常駐することにより、コア業務をさらに重症患者や循環器疾患の患者に絞り込むことができるようになり、管理栄養士の数はもちろん、質も飛躍的に高まることになります。病棟に常駐することで、患者を栄養学的に診て患者それぞれの個別対応が可能となり、患者の栄養管理の業務をスムーズに行うことができるようになります。
多職種が関与するチーム医療のためには、①業務の標準化がなされてルーチン業務になっているか、②電子カルテに他の職種でも理解できる言葉や書式で記載され、患者の情報を多職種が共有しているか、③多職種が同じ目的でチーム医療するために理念や価値観の共有、仲間意識を持っているか、④チーム医療のマネジメントが有効に働くDPC一日包括払いであるかどうか、が必要となります。この4項目と前段のコア業務に絞り込んで病棟常駐しているか、患者を診て栄養学的に介入しているか、を加えた6項目を実践することで確実にアウトカムの出るチーム医療になると考えています。

近森病院の栄養サポートチーム
高知県は高齢化が進み、近森病院の入院患者の半数近くに栄養サポートが必要であり、多数精鋭の管理栄養士が病棟に常駐し、電子カルテで情報を共有、業務の標準化で質を保ち、多くのリスクの低い低栄養患者に対応しています。数少ないがリスクの高い低栄養患者に対しては医師、看護師、薬剤師、リハスタッフ、臨床検査技師、管理栄養士が集まって、カンファレンスやラウンドですり合わせをして情報を共有し対応しています。
近森病院の管理栄養士は22名(図3)で、まず人数が多いこと、病棟に常駐し医療専門職として働いており、制服は白衣を脱ぎ作業着になっている。病棟を飛び回っていることから各自PHSを持っており、患者を診て栄養学的に判断するために聴診器も持っている。さらには事務などの雑用をしてもらうために、厨房業務の事務員ではなく栄養部の秘書を置いている。ちなみに平成8年頃の写真(図4)では、近森病院の管理栄養士はわずか3名で私服に白衣、厨房横の事務所に固定電話があるだけで、聴診器の必要性など全く考えられない時代であった。

まとめ
21世紀になり、医療の高度化と高齢社会の到来、DPCによる一日包括払いの導入により、急性期病院も付加価値を売る時代となり、アウトカムを出すために膨大な業務を処理しなけらばならなくなった。そのため医師、看護師中心の少数精鋭の医療では対応できず、多職種による多数精鋭のチーム医療で対応せざるを得なくなり、医師ばかりでなく多くの医療専門職が、それぞれの視点で患者を診て介入せざるを得ない時代を迎えたといえます。そのため、管理栄養士も病棟に常駐し、栄養学的に患者を診ることを今の時代が求めています。チーム医療に参画することが求められている管理栄養士は、前時代的な大学教育や卒後研修、食事という「モノ」をサービスして患者を診てこなかった点で、最も遅れて病棟にやってきた医療専門職といえます。管理栄養士が180度自己変革し、数を増やして質を高めることでアウトカムの出るNSTを実践しているということは、病院のチーム医療の完成度が高いことを示しています。マネジメントの最も難しいチーム医療の完成度が高いということは、地域医療連携や病棟連携の完成度が高いということであり、患者や医師、スタッフの集まる地域でいちばんの「マグネットホスピタル」になるということを示しています。管理栄養士が病棟に常駐し、患者を栄養学的に診て介入できるということは、単に管理栄養士の夢や希望というレベルの問題ではなく、その病院が21世紀の医療に対応し、病院らしい病院としてあり続けているかどうかを端的に示しています。管理栄養士を厨房の横の事務所に閉じ込め、厨房業務のみをやらせている昔ながらの病院は、急性期病院としては衰退の道を辿ることを覚悟してもらわなければなりません。管理栄養士を増やし質を上げて病棟常駐させることは、生き残りをかけた病院トップの役割であり、管理栄養士はいつでもトップの方針転換に対応できるよう、NSTカンファレンスで知識を積み重ね、たとえ一病棟であっても管理栄養士主体の栄養サポートを実践し、患者を診て患者から教えてもらいながら成長していただきたいと切に願っています。
 

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