2017年 これからの近森病院を託して

 

2017年1月
社会医療法人近森会 理事長 近森 正幸

時の分水嶺

近森病院院長 近森正幸

 近森にとって、2016年は激動の1年間であった。2016年4月の診療報酬改定は、10年後に振り返ったとき、日本の医療が大きく変わった「時の分水嶺」ともいえる改定であったと考えている。この変化の予兆は2年前の2014年改定の重症度、医療・看護必要度AB15%の導入であったが、近森会全体の増改築工事で病床が制限され、収入が減少したところに、建築費や設備費などの出費が重なり、その影響を正確には把握できていなかった。いま見直すと、2年前から大きな変化が起こっていたように思う。

 マイナス改定の影響は、稼働率や単価の低下による売り上げの減少、さらには人件費コストの増加などにより、全国的に病院収益の急激な悪化が起こっている。なかでも高知県は人口が減少し患者数が限られているところに、全国平均の倍の病床数と3倍の療養病床、さらには急性期基幹病院が6病院と救命救急センターが3病院あり、機能分化が急速に進んでおり、今回の改定の衝撃が最も強く高知の地域医療に表れている。なかでも近森病院においては、5カ年計画による全面的な増改築工事に伴う膨大な有利子負債の増加があり、4月から元金の返済が始まったこと、急性期病床の114床増床による先行的スタッフの採用に伴う人件費増で、全国でも最も大きな影響が出た病院の一つであった。

救命救急医療の基幹病院として

 近森病院の急性期病床を338床から452床へ増床したことは、従来の「単価のアップ」から「患者数のアップ」へ方針転換したことを意味しており、救急入院患者数、重症入院患者数を飛躍的にのばして中四国でも有数の病院になったことで、人口減少、患者減少の時代の高知県の救命救急医療の基幹病院として生き残る大胆な「投資」を行ったことを意味している。7年前の5カ年計画を始める前の近森病院と現在の近森病院を比べてみると、「一般急性期病院」から「高度急性期病院」に機能、規模ともに飛躍的に充実している。以前の近森病院のままであれば、21世紀の高度急性期医療に適応するハードではなく、ベット数も338床に抑えられ、月に200台~300台の救急車のお断りが続いていた。医師やスタッフを増やし、医療の質を上げる原資もなく、今回の診療報酬改定を契機に近森は衰退の道をたどっていたのではないかと思われる。

高知の地域医療は再構築の時代に

 今回の診療報酬改定は「急性期医療」においては全体のマイナス改定とDPC医療機関別係数の低下による患者単価の減少、7:1看護の重症度、医療・看護必要度のABC25%ルール、高規格病棟の新AB80%ルール、さらには、小児科や産婦人科のある公的病院の総合入院体制加算のAC27~30%ルールなどにより、入院患者の絞り込みと在院日数、稼働率の低下が急速に起こっている。高規格病棟への入室制限や一般病棟への転棟促進で患者単価のさらなる低下が生じ、売り上げの急激な減少による重症救急患者の取り合いが増え、高度急性期病院への重症患者の集中と基幹病院のなかでも2極分化が生じている。さらには、100床あたりのスタッフ数の少ない一般病院の入院患者数が減少し、入院患者の軽症化による在院日数の短縮も重なり、稼働率が著しく低下、一般病棟から地域包括ケア病棟への転換や病棟閉鎖、病床の削減が現実となっている。 「回復期医療」においては、回復期リハはFIMによる実績指数の導入により、在院日数や稼働率の低下、患者単価の減少が生じ、回復期リハ病棟においても高機能のリハと低機能のリハへの2極分化が進んでいる。地域包括ケア病棟は在院日数と在宅復帰率のしばりで運営ノウハウのない病院では稼働率の低下が続いている。

 「慢性期医療」においても医療区分2、3の80%ルールで療養病床の空洞化と、医療区分2、3、50%ルールの95/100算定で患者単価の減少が生じ収益が急激に悪化、廃院や施設化が進むと考えている。 こうしてみてみると、高知県の地域医療は「地域医療構想」が県行政や医師会、病院協会などにより一応策定されているが、それ以前に厳しい診療報酬改定で地域医療は激変するであろうし、機能分化と淘汰により高知県の地域医療は2050年の世界へ再構築されつつあるのではないかと思う。

より高度でしなやかな連携を

 近森は従来から「選択と集中」で機能を絞り込み、医療の質を上げ労働生産性を高めてきた。そして地域医療連携や病棟連携、チーム医療などのマネージメントで売り上げを増やし、豊富な人材や建物、設備への投資を行ない「患者さんにとっていい医療」、「職員にとって働きやすい、やりがいのある職場」をつくりあげてきた。今回の診療報酬マイナス改定が高単価、高稼働の病院を直撃したため、マネージメントを徹底し、より高度でしなやかな連携を進める必要が出ている。

 「地域医療連携」では前方連携も後方連携もより個別、具体的で密接な「アライアンス連携」が求められている。

 高齢の重症で手間のかかる患者さんを看護師の多い高規格病棟で診て、落ち着けば一般病棟へ移るという「病棟連携」も、これからは入院患者数と重症度に応じた高規格病棟の病床数と組み合わせが大事になり、看護部による運用の精緻化と効率化が求められている。

 「チーム医療」においても医師や看護師の業務を医療、看護というコア業務に絞り込み、自立、自動する専門性の高い多職種とチームで業務を行う「病棟常駐型チーム医療」により、医療の質と労働生産性を高め、売り上げを増やし、多くのスタッフを雇っても人件費コストの相対的な削減が実践されている。これからはチーム医療においても業務量とスタッフの数や質、それらの組み合わせの高度なマネージメントが求められている。

病院一丸となって

 今回の診療報酬改定の「本質」は、入院の抑制による稼働率の低下と患者単価の減少で100%稼働でも利益が出なくなり、損益分岐点の相対的な上昇でコストを下げざるをえなくなったことを意味している。一般経費ばかりでなく、薬剤や診療材料費、さらにはコストの半分を占める人件費にも手をつけざるを得ず、徹底した「見切り」が必要になった。今回の改定の衝撃で8月には院内旅行も中止し、全職員の協力で徹底したコストの削減を行ったが、今までの近森の伝統である研修に力を入れ、人間として医療専門職として成長することや、やりがいのある仕事や働きがいのある職場づくりには無駄をはぶきより効率的に成果が上がるよう、これまで以上に頑張っていきたいと思っている。

 従来の診療報酬マイナス改定では当然4月には売り上げが減少するが、数カ月で自然に回復していた。4月から多額の単月の赤字が続き、従来のストラクチャー評価からアウトカム評価に診療報酬の概念が全く変わったことがよく理解できた。そのため改定後の売り上げの減少と膨大な赤字の原因を究明し、新しい経営方針を打ち出さざるをえなくなった。8月には医師全員と主任以上の全スタッフに集まってもらい、危機の共有と救急のお断りを減らすなどの努力を行い、入院患者さんを増やし稼働率を上げるとともに、徹底したコストの削減をお願いした。その成果が8月から9月には現れ、経営が著しく好転している。さらには理事会の若返りを行い、新しい理事会へ再編成し、「患者さんにとっていい医療」とは何か、スタッフにとって「働きやすいやりがいのある職場」を作るにはどうしたらよいかという理念のもと、現場に密着した意思決定ができる理事会とした。それと平行して院長直轄の病院運営改善委員会により、実務者によるワーキンググループでコミュニケーションを深めてセクト主義を排し、具体的な議論を行い現実的な対応策を提示してもらった。部科長会も再編成しみんなで具体的対策の討議と決定ができる場とした。その決定を合同運営会議により周知徹底するとともに、各種委員会も再編成し必要に応じ委員長や委員も若手に交代し、活性化を図りアウトカムの出せる委員会に転換しつつある。

新しい体制で

 これまでは病院トップが医療環境を整え、医師やスタッフにいきいきと働いてもらえれば病院運営や経営は順調に行われていたが、これからは情報を公開し、オープンな場で実務者が考え決定し、みんなで心をひとつにして変革する時代になったと思う。

 時代は今、大きく変わろうとしており、その変化の本質はいまだにはっきりとしていない。そのため病院の医療現場で起こった変化を若い感性でとらえ、若い力で対応を手探りで進めるしかない。そのためにも救急現場で頑張っている近森正康先生を院長に、川井和哉先生と入江博之先生をそれぞれ副院長として、2017年1月から院長、副院長全員の交代を行った。私、近森正幸は理事長職に専念し、浜重直久内科部長、北村龍彦外科部長は共に理事として、今まで通り近森病院、近森会を見守っていただくことになった。これからは患者さんや医療スタッフのニーズに基づいて病院病床のさらなる機能アップと絞り込みを行い、機能分化と連携を進め若い力で近森病院をひっぱっていただきたいと切に願っている。