2015年 新しい近森病院

 

近森会グループ 理事長 近森 正幸
はじめに

近森病院院長 近森正幸

  近森会グループのこの一年間の動きの中でもっとも大きな出来事は、近森病院の全面増改築工事、五カ年計画が完成したことです。ヘリポートを有する本館A棟の完成後は本館B、C棟の5階6階病棟、7階厨房の全面的な改造を行い、昨年12月2日受け渡しを受け、6日には病棟の引っ越しを行いました。多少の改造工事が残っていますが、病棟はすべて完成し、現在の367床が400床の稼働となり、今年春には従来の338床が114床増床され、一般急性期病床452床がフル稼働の状態になります。

 

高知県の地域医療

  高知県の地域医療の本質的な問題は、人口が減少している高知県において日本一多い病床数を有し、在院日数も長いことから無駄な入院医療も多く、一人当り入院医療費が全国で最も高い点にあります。昨年から行われている「病床機能報告制度」により、高知県がどのような「地域医療ビジョン」をつくり実行するかが全国的に注目されています。

 2014年10月27日版の日本経済新聞で国際医療福祉大学の高橋泰教授がまっ先に書かれているように、高知県は病院病床、特に慢性期病床が過剰で、かつ人口減少が見込まれるので急性期、慢性期病床ともに削減する必要があると言われています。厚労省の「地域医療ビジョン」ガイドラインでは、将来的に病床の6割削減が求められている極めて厳しい時代に、急性期の一般病床114床を増床し、ハード、ソフトを整備し得たということは、近森会グループだけでなく高知県の地域医療にとって非常に大きな意味があると考えています。
高知県の医療は世界標準に向かって変化し続けると思いますし、2025年の医療は従来の医療の延長線上にあるのではなく、概念的に大きく変わった世界が展開されるのではないでしょうか。

マネジメント

 そのためには「選択と集中」で機能を絞り込み、医療の質を上げ、労働生産性を高める必要があります。近森病院は救急医療に機能を絞り込み、救命救急センターを中心としてハートセンター、消化器病センター、脳卒中センター、外傷センター、腎・透析センターなどが診療科の壁を取り払い、有機的に連携しあいながら救急医療に対応しています。
DPCデータの疾病別退院患者数では、平成25年度は脳卒中、循環器、外傷ではもっとも多くの患者を受け入れていますし、緊急入院患者数では呼吸器以外の脳卒中、循環器、消化器、腎・尿路、外傷すべてにおいてもっとも多くの緊急の入院患者を受け入れています。これらは先生方や多くの医療専門職がチームで24時間365日、脳梗塞に対するTPA療法や心臓カテーテル治療、消化管出血や胆管炎に対する内視鏡的な止血や乳頭切開、迅速な緊急手術などを行ってくださっているおかげだと深く感謝しています。
「選択と集中」で病院の機能を高度急性期、救命救急医療に絞り込めば絞り込むほど足りない機能が出てくるので、「分業と協業」が必要になります。病院の機能を絞り込めば「地域医療連携」、病棟の機能を絞り込めば高規格の病棟で重症で手間のかかる患者をみて、落ち着けば一般病棟へ移すという「病棟連携」が求められます。医療スタッフの業務を絞り込めば「チーム医療」や「診療支援」が必要になります。今回の近森病院の五カ年計画の完成は、これらの病院機能の絞り込みのハード面、舞台が完成したことを意味しています。ある意味、近森病院は2025年高齢社会の急性期医療の実験室であったといえますし、日本がこれから迎える超高齢社会の医療にもっとも適した形の病院が近森病院であり、急性期からリハビリ、在宅に至る近森会グループであるといえます。

地域医療連携

 2011年11月に完成した外来センターは完全紹介・予約外来制で、初診の患者もかかりつけの先生方が予約して紹介状を持たせて来院していますし、再診はすべて予約の患者になります。これは「地域医療連携」を追求した結果であり、連携を進めることで外来診療のシステム化が進み、患者の待ち時間の短縮や予約して来院すれば必ず専門医に診てもらえるようになってきました。落ち着いた患者をかかりつけの先生方に紹介することで、紹介・専門・救急外来といった重症外来患者に特化できますし、外来医療から入院医療への絞り込みも可能となり、医師の労働環境の改善にも大きく貢献しています。突然の傷病の発生で救急車やウォークインで来る患者は、本館1階にあるER、救急外来で対応しています。
平成25年度は予定入院が4割、緊急入院6割と緊急入院の比率が高く、入院患者8,347人中、紹介による入院35%、外来からの入院36%、救急による入院29%でほぼ1/3ずつとなっています。
前方連携のみならず後方連携でも、近森リハビリテーション病院や近森オルソリハビリテーション病院が、脳卒中や整形外科のリハビリの患者を受け入れていることで在宅復帰率も10%向上し、現在86.9%で、7:1看護の75%という在宅復帰率をクリアしています。

病棟連携
 

 昨年8月15日、本館A棟の完成により本館4階フロアはすべて高規格病棟となり、A棟はスーパーICU18床、B棟は救命救急病棟18床、C棟はHCU1 、16床で救急病棟として機能しています。本館A棟5階には12月6日北館2階からSCUが移転し、脳卒中センター24床が開設されました。これにより高規格病棟は76床、452床の病床中16.8%を占めるようになり、高齢の重症で手間のかかる患者を看護師の多い高規格病棟でみて、落ち着くと一般病床へ移すという「病棟連携」が充実することになります。
452床すべて7:1の病棟であれば322名の看護師しか配置することしかできませんが、76床の高規格病棟をつくることにより397名、75名もの多くの看護師を配置することが可能になり、多忙な看護師の数を増やすことが出来ます。さらには、専門性の高い多職種が病棟に常駐しチーム医療を行うことで、看護師からリハビリや栄養、医療機器、薬剤、退院調整といった周辺業務を取り、看護というコア業務に絞り込むことで看護師の労働環境の改善に大きく貢献してくれています。
昨年4月の診療報酬の改定でICUやHCUの重症度、医療・看護必要度のA項目、B項目が極めて厳しくなったため、A&Bをリアルタイムに可視化することでERから高規格の病棟への入室と高規格病棟間や高規格と一般病棟への転棟という、看護のマネジメントが病院運営に大きく貢献する時代になってきました。近森病院の看護部は、日本でもトップクラスの看護のマネジメントを発揮して、A&Bに対応し、スーパーICUやHCU 1の厳しい基準をクリアーしてくれています。

チーム医療

 高規格病棟や一般病棟でも多くの医療専門職が病棟に常駐し、単に「医師の指示は神の声」と何も考えずに業務をするのではなく、多職種がそれぞれの視点で患者をみて、判断して、患者に介入する、自立、自動する多職種による多数精鋭のチーム医療が近森では展開されています。
従来の「医師中心のピラミッド型組織」ではなく、「多職種によるフラットな組織」に変化しつつあり、それぞれの視点で患者をみることで全人的に患者がみれることから医療の質は高く、さらにはそれぞれが自立、自動し、業務処理能力が高いことから労働生産性も高くなっています。「チーム医療」の最大の効果は、業務を標準化しルーチン業務を行い、患者を診て専門性を高めることで、医師以外のスタッフも膨大な業務、高度な業務を安全確実にできるようになり、医師、看護師ばかりでなく、多職種の労働環境の改善とやりがいを持っていきいきと働くようになることにあると考えています。

機能的な病院として

 新しく完成した本館A棟をみても、21世紀の高齢化社会の高度急性期医療に充分対応できる建物となっています。
1階A棟、B棟には面積が4倍に拡張されたERがあり、A棟には重症用レッドエリア5床、中等症イエローエリア7床、B棟には軽症グリーンエリア5床の17床のベッドが配置され、4階B棟の救命救急病棟とともに救命救急センターとして機能しています。

 

 2階はすべて手術センターで、A棟には胸、腹部の大動脈瘤ステントグラフト内挿術、カテーテルによる大動脈弁置換術(TAVI)などが可能となるハイブリッド手術室を含む高規格の手術室が4室、従来のB、C棟を合わせれば11室の手術室になります。
外来センターと陸橋でつながった3階フロアは、すべて検査部門であり、外来センターには画像診断、A棟には生理、輸血検査室や生化学検査室に隣接してIVR-CT室があり、血管造影とCTを組み合わせ、脳外科や放射線科による血管内治療に大きな役割を果たしています。B棟には血管造影室が3室あり、虚血性心疾患のPCIや末梢動脈のEVT、不整脈に対するアプレーションといったハートセンターのカテーテル治療の中心を成しています。C棟は内視鏡センターでX線テレビ室も併設され、5室の内視鏡室で消化器疾患の診断、治療センターになっています。

 

 4階フロアには、高規格の病棟がA棟、B棟、C棟に並んでおり、円滑な患者の転棟に効果を上げています。
A棟の5階フロアはSCU24床、6階の6A病棟はSCUの後方病棟として脳外科、神経内科の病棟になり、脳卒中センターとして機能しています。7階の7A病棟は消化器内科、8階の8A病棟は外科の病棟で、3階C棟の内視鏡センターとともに消化器病センターになります。8A病棟はまた泌尿器科と透析科の病棟で、7階C棟の透析室とともに腎・透析センターとして、臓器不全に対して臓器代償療法を行っています。
改装なった5階5B、5C病棟は、循環器、心臓血管外科の病棟で、ICUや血管造影センターと連携しハートセンターとして機能します。6階6B、6C病棟は整形外科と形成外科が入り、外傷センターとして活用されています。
本館A、B、C棟はSTAC、short term acute careとして機能し、北館病棟はより落ち着いた患者さんが入院するLTAC、long term acute careを担当することになります。
本館A棟9階及び6B整形外科病棟、SCU脳卒中センターにはそれぞれリハビリの訓練室が配置され、増加する早期リハビリに対応しています。10階には病院全体の医療機器のメンテナンスを行うMEセンターを移設すると共に、新しいサーバー室を設置し10月には新電子カルテシステムに更新し、レスポンスタイムの向上や医師によるオーダー追加も行っています。
 屋上にはヘリポートが整備され、高知市から離れた郡部からの緊急患者の受け入れをドクターヘリや防災ヘリを通じて行っています。従来のドクターカーばかりでなく、ヘリポートができドクターヘリを有効に使えるようになり、郡部の緊急重症患者の治療成績の向上が図れるとともに、診療圏の拡大が図られることになります。
このようにみてみますと、本館A棟の中央部にある大型エレベーターで1階ER、2階手術室、3階心カテ、内視鏡センター、4階ICU、救命救急病棟、救急病棟、5階SCU、屋上ヘリポートと縦の動線で重症患者に対する異なった機能が結ばれ、さらには横の動線で1階から4階フロアーまで同じ機能を持ったユニットが結ばれており、極めて機能的な病院であることが分かります。

 

二年後に向けて

 現在、江ノ口川の南側、ボウルジャンボ跡地で近森リハビリテーション病院の新築工事が進んでいます。今年の夏には新しい近森リハビリテーション病院が完成し、現在地から移転したあとは全面的な改造を行い、来年には近森オルソリハビリテーション病院が移転して来ます。現在の近森オルソリハビリテーション病院の建物は改造され、今年春開校予定の近森病院附属看護学校が移るようになっており、近森会グループ全体のすべての工事が来年中には完了することになります。

 

 

近森外科から70年

 来年の2016年は、まさしく大川筋の地に近森外科として1946年12月24日開院して70年目の記念すべき年となります。
私の父 正博が診療を行い、母 孝子は厨房で患者さんのためにおいしい料理を作り、そして父の軍医時代、衛生兵として仕えてくれた寺尾さんを事務長として迎え、わずか3人で始めた組織が、70年後792床の病床を有し、職員総数1,900名、外部委託のスタッフも入れると2,200名の大きな組織に成長しました。
父は“0”から病院を立ち上げ、無駄な医療はしたくないという思いで何カ月も病院の屋根裏部屋に泊まり込み、救急医療を行っていました。また、昭和40年代の早い時期から機能分化のために、ICUや手術室、検査室、放射線科のセンター化を図り、量的拡大を繰り返し、579床の病院にまで育て上げてくれました。勉強が好きで、忘年会や職員旅行が大好きな父でもありました。今日の近森の原型を作り上げてくれたのも、レールをしいてくれたのも父であったように思います。
私も30年前に跡を継ぎ、外科医として必死に働き、医療の質と労働生産性を高め、患者さんにいい医療を提供し、すべての職員が笑顔でいきいきと働く病院を目指して頑張って来ました。
幸い、思いをひとつにしてくださる多くの先生方やスタッフが集まり、県民、市民には「救急のチカモリ」という厚い信頼をいただき、今日の近森会グループがあるように思います。

まとめ

私たちが思いきり力を発揮できるすばらしい舞台ができあがりました。
新生なった近森病院は 1)救命救急医療に特化 2)「地域医療連携」を徹底し、外来センターと入院機能の分離 3)多くの高規格病棟と一般病棟との有機的な「病棟連携」 4)多職種による多数精鋭の「チーム医療」 5)縦の動線で重症患者に対する異なった機能が結ばれ、横の導線で同じ機能をもったユニットが結ばれている極めて戦略的な病院といえます。

今年は近森会グループが新しいスタートラインに立った気持ちで、心を新たにして走り出したいと思います。