病院らしい病院としてあり続けるために

月刊 看護管理
2011年4月号掲載
株式会社医学書院

 

 病院らしい病院としてあり続けるために

-チーム医療の発想の大切さ-
 
 
 
社会医療法人近森会 近森病院
院長  近森正幸
 
 
はじめに
 

 現在、医療界を取り巻く環境は、高齢社会の到来や低医療費政策、医師の引き上げ、大不況、構造デフレといった市場環境の悪化により極めて厳しい状況にあります。その中で、2012年の診療報酬・介護報酬ダブル改定をある意味期待感を持って、それ以上に恐怖感を持って医療界は迎えようとしております。ただ、以前から考えておりましたが、現在の政治情勢や財政の逼迫から考えても、医療制度や診療報酬の変化に病院が右往左往するよりも地域に根を張って県民市民にとっていい医療を実践する自己変革を続け、地域医療にとってなくてはならない病院になることの方がもっと大切ではないかと考えています。

 


「選択と集中」で医療機能の絞込み

病院の体質を変えるといってもどういう方向へどのようにしたらいいか、病院のトップ自体が目先の診療報酬で決まった点数を取ることに汲々としたり、迷いながら手探りで行なっているのがほとんどの病院の現状ではないかと思います。10年程前から地域医療連携の大切さが述べられるようになり、最近はチーム医療が脚光を浴びております。これらの実践の発想の原点は、「医療資源は有限」だということです。医師、看護師をはじめとした医療スタッフは貴重ですし、外来の診察室や手術室の数、病院の設備や資金、システムも限りある資源ですし、なかでも専門性の高い医師は希少資源となります。そのため、限りある資源を有効に使うためには「選択と集中」を行なって、その機能の絞込みが大事となります。たとえば、優秀な循環器の医師に外来で風邪や腹痛などの患者ばかり診させることを考えると、いかにその医師の能力を無駄にしているかが分かると思います。外来機能を絞り込んで落ち着いた患者は逆紹介でかかりつけの先生方にお願いして、循環器の専門医には紹介や専門外来、救急の循環器の患者に絞り込んで診てもらうほうがいいですし、入院医療においても書類の作成や治験業務、学会のデータ出しなどは医療秘書にやってもらい、病棟においても薬は臨床薬剤師、栄養は管理栄養士、動かすことはリハビリスタッフ、社会資源を使うことはMSWにお願いして、雑用や周辺業務を取ってもらうことによって専門医はその中核業務、循環器疾患の診断やPCIなどの治療に専念することができるようになります。このことによって、その医師のやりがいが増すと共に労働生産性は飛躍的に向上し、医療の質も高めることができます。

 

 

病院と病棟の「分業と協業」

 

 医療機能を絞り込むことによって、どうしても捨てざるを得ない機能が出てきますので、「分業と協業」が必要になってきます。病院は入院医療が中心で、外来の機能を絞り込むと病院の外来でしかできない紹介、専門、救急外来となり、かかりつけの患者はかかりつけ医にお願いすることになります。また、自宅に直接帰れない障害のある患者は回復期リハ病棟や療養病棟にお願いすることになります。そのため、病院レベルの分業と協業は「地域医療連携」を意味しております。私ども近森会グループも急性期の近森病院、脳卒中、脊損対象の全館回復期リハ病棟の近森リハビリテーション病院、整形外科専門の回復期リハ、亜急性期病棟の近森オルソリハビリテーション病院、総合心療センター(急性期の精神科専門病院と精神障害者の在宅サポートセンター)が高知の駅前に隣接して存在し、他の医療機関とも連携しながら分業と協業によって有機的に連携し患者を早く治し早く自宅に帰っていただくよう努力しております。
病棟では、業務の範囲が広がり業務量も増加したことにより、一般病棟のみで急性期医療に対応することは不可能になっており、重症患者をICUやCCUなどの特定集中治療室で、要介護度の高い患者はHCUで対応することが求められております。病院の機能によって脳卒中ケアユニット、新生児や総合周産期特定集中治療室なども必要になってきます。これらの高規格の病棟で病状が安定後、一般病棟に移ることによって病棟レベルの分業と協業が成立します。

 

 


「チーム医療」は業務の「分業と協業」

業務の分業と協業は、「チーム医療」となります。チーム医療は各々の病院の行なっている医療行為や各職種のスタッフ数とその質、もともとの病院風土が多種多様で、ある意味複雑で巨大なシステムといえます。そのため、院長が頭でチーム医療のデザインを考えても作り上げることは困難で、現場でPDCAサイクルを繰り返し、その病院に合ったよりよいチーム医療を作り上げることが大事になります。そのためにも各職種が病棟に出て、直接患者に接して専門性の高い一次情報を得て判断し、それらの情報を集めチームで情報を共有することが求められています(写真1参照)。また、患者に接して標準的な対応を積み重ね、ルーチン業務として業務の標準化に落とし込むことも大切になります。単に点数を取るためのチーム医療ではなく、必要な患者すべてに必要なときに必要なチーム医療を提供することによって医療の質の向上やコストの削減といったアウトカムが出ますし、医師、看護師ばかりでなく病棟に出ることによって各コメディカルのやりがいや労働生産性も上がり、マンパワーを充実しても人件費率は上がることはありません。これらを実践するためにも多職種が病棟に配属され、直接患者に接することが大切で、業務の標準化を進めることで電子カルテによる情報交換のみで情報の共有を行なうことが可能となります。今まで急性期医療の現場ではあまり見られなかった「病棟配属型のチーム医療」が高齢社会を迎えるこれからの病院運営に大きく貢献すると考えております。

 


おわりに
 

 病棟の片隅で好きな医師や看護師、コメディカルが集まってやっているというようなチーム医療のイメージがありますが、私はチーム医療の発想と実践は急性期病院だけでなくすべての医療機関を病院らしい病院としてあり続ける大きなツールになると考えています。極論を言えば病院経営そのものだといえます。その原点は、医療資源は有限だということです。そのため、医療機能を選択と集中で絞り込むことが必要となり、どうしても捨てる機能が出るので、分業と協業を病院のあらゆる場面で実践することが求められます。その方向性として、医療は人ですのでマンパワーを充実しその質を上げ、医療の質を向上することが大事になってきます。そのため、病院組織も縦割りでピラミッド型の組織から風通しのいいビビッドに反応するフラットな組織が求められますし、医師、看護師中心でマンパワーの少ない20世紀型の病院から、チーム医療によりマンパワーを充実し、質の高い医療を効率的に提供できる21世紀型の病院に変革することが求められております。病院のトップばかりでなく、スタッフ全員がこのような発想でやりがいを持っていきいきと医療に取り組める病院こそ、病院らしい病院としていつまでもあり続ける病院ではないでしょうか。

 

 

近森 正幸
社会医療法人近森会 理事長。
1972年大阪医科大学卒業。1984年 医療法人近森会 理事長、近森病院 院長に就任。
1989年「近森リハビリテーション病院」を開設。2007年「近森オルソリハビリテーション病院」を立ち上げ、2008年には障害者支援施設「高知ハビリテーリングセンター」を県より民間移管され、急性期医療からリハビリテーション、在宅への近森会グループのシステムが構築された。


※転載にあたり、医学書院様よりテキストのみの許可をいただいている為、図表はございません。