解説(3)

■解説(3)
【術後出口部の経時的変化でみた侵軟状態】近森病院 近森病院透析科 吉村和修 光平郁美 下元小百合 後藤玲子 近森正昭

背景

 

腹膜透析療法において出口部の状態を良好に保つことは重要である。出口部の感染が進行すると、最終的にはトンネル感染による腹膜炎をきたす。
そのことは腹膜透析療法のテクニックサバイバルに影響を与える。
出口部の管理については主に消毒方法が論じられてきた。
一方、出口部の作成の極早期の時期、つまり術後すぐの状態が良好に推移するとその後の出口部の感染状況も良好に推移することを臨床的に経験する。
今回我々は内的な因子について検討するため挿入直後の出口部の形成過程を詳細に観察した。

 

方法

 

スカラ社の接触顕微鏡USBマイクロスコープM2で50倍に拡大して観察し、カテーテル挿入直後から経時的に観察し出口部の形成過程を詳細に観察した。

 

症例1

 

良好な出口部形成に至った症例を示す。
現病歴:73歳男性。
2006年7月4日にCABGを行っていた。
以前より高血圧、高脂血症を認め、CABGの際には腎硬化症由来と考えられるCr3mg/dlの慢性腎不全を認めていた。
その後徐々に腎機能悪化し、2009年8月20日血液透析開始。
同22日も透析行い、同24日にカテーテル挿入しCAPD開始し、同9月1日退院。
約二週間の経過で順調に経過した症例である。
経過:Fig.1術直後の像を示す。a 肉眼的所見 b 接触顕微鏡での50倍での拡大画像を示す。

カテーテル挿入術で出口部を形成すると、トンネル部は外界に解放された空洞として浸出液が漏出している。
拡大像で浸出液が漏出している像が認められ、やや皮膚には乾燥が見られる。
Fig 2 術後一日目の拡大画像を示す。

術後一日目には、トンネル形成により皮下の微小循環が障害され、炎症をきたし角質の浮腫を生じる。
出口部周囲の皮膚は浮腫で皮膚の溝が浅くなり、いわゆる肌理の境界が明瞭でなくなっている像が認められる。

Fig3に術後5日目の肉眼的所見と拡大像を示す。
術後5日目には、皮下の血管網が回復し、浮腫が改善してくる。
結果皮膚の肌理が次第に明瞭になってきている。
一方で出口部辺縁の皮膚がミイラ化し、健常部分との境界がはっきりしてくる。

Fig4に術後7日目の像を示す。
皮膚の壊死部分が脱落し、出口部を一周する痂皮の形成を認める。
浮腫軽減で溝が深くなり、肌理がよりくっきりと明瞭になっている。

Fig5に術後8日目を示す。
痂皮脱落し出口部を一周する潰瘍面形成 が見られた。

Fig6に術後18日目を示します。
潰瘍部は上皮化され、出口部の肉芽形成で周囲の皮膚が盛り上がっている。
肉芽は瘢痕化し、傷つき難くなる。
ただ、この出口部が形成される期間に浸軟状態となると、正常な上皮形成が阻害され感染に弱い状態がつづく可能性が想像される。

 

症例2

心不全が良好にコントロールされていない状態でカテーテル挿入した例を示す。
現病歴:症例は82歳男性。
1998年心不全にて来院され、その後心不全にて入退院を繰り返していた。
腎硬化症由来と考えられる慢性腎不全もあり、2001年4月23日血液透析導入された。
シャント不全を繰り返し2003年7月3日CAPDへ変更となった。
経過:Fig7に術後21日目の拡大像の所見を示す。

出口部周囲の上皮化は完成されているが、浸出がみられ全体に湿潤しており侵軟の状態である。
Fig8に一カ月後の像を示す。

aがカテーテルの過度の移動に伴い上皮が欠損し排膿が認められる。

bその二日後に治癒し上皮が再度おおっている像だが、湿潤し、侵軟が継続していることがわかる。
最初の出口部が完成する時期に侵軟の状態であると、辺縁の上皮化された皮膚の構造がもろく、傷つきやすい。
またいったん修復されても侵軟状態が継続しやすいこと示すと考えられた。
当初の上皮の形成を妨げた因子は心不全にともなう浮腫がコントロール不良な時期であったことが関与している。

症例3

肝硬変による難治性腹水の症例。
現病歴:78歳男性。
近医にて慢性C型肝炎による肝硬変、胆石、糖尿病にて加療されていた。
2009年3月14日心窩部痛あり黄疸出現。
17日に総胆管結石による閉塞性黄疸の診断で入院となり、同日ERCPにて排石を行った。
その後肝不全を併発し保存的に加療も腎不全を合併し26日透析開始となった。
血液透析では腹水コントロール困難であり6月12日CAPDへ移行した。

経過:Fig9に術後21日目の肉眼像を示す。
腹部は膨満し浸軟で皮膚がむくみ、発疹が散在、出口部が膨隆している。

Fig10に同日の拡大所見を示す。
出口部は侵軟しており、肌理が不明瞭な状態である。
上皮化はされているが、今後、物理的な侵襲には容易に上皮の損傷をきたす可能性が考えられた。
腹水コントロールが困難な状況であり、このことが出口部の正常な形成を阻害し、侵軟な状態が今後も継続していくと考えられた。

考察

正常の出口部形成過程は、術直後はトンネル部が外界に開放された空洞として滲出液が漏出し、皮下の微小循環が破壊される。
水分漏出は皮膚を乾燥させ、微小循環の破壊は角質の浮腫を生じる。
術後一週間程度で、角質の浮腫は改善し出口部の皮膚は脱落しその後上皮で覆われていく。
術前および周術期に心不全や肝硬変の腹水のコントロールが不良な場合、出口部は過度な湿潤環境に暴露され侵軟の状態となる。
そのことは、出口部上皮の正常な構造の形成を阻害し、術後早期の時期にとどまらず、長期的にも出口部の感染しやすい状況が継続する。
出口部感染の長期的な予防のためには、出口部の上皮が形成される術後早期はより厳密な体液管理が必要と考えられた。

結論

出口部の形成過程を接触顕微鏡にて経時的に観察した。
良好な出口部を形成するためには術前に十分な透析による体液管理が必要と考えられた。

Showing record 3 of 6 | 閉じる |