相談役 近森正幸のドキュメント document

相談役 近森正幸のドキュメント

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2018年12月

2018年度近森会グループ忘年会 挨拶

近森会グループ 理事長
近森正幸

皆様、この一年間本当にご苦労様でございました。

2年前の2016年4月の診療報酬改定で、7:1の看護師の数を揃えれば診療報酬が入るというストラクチャー評価からアウトカム評価が導入され、日本の医療が大きく変わり、私ども近森会グループでも救急や紹介患者さんの受入れの増加、人件費削減を含む諸経費のコストカットや地域包括ケア病棟34床の開設などをやらざるを得なくなりました。

今年4月の診療報酬改定では、アウトカム評価が一段と強化され急性期医療では7:1看護の重症度・医療看護必要度が30%となり、回復期ではFIMによる改善率、在宅復帰率の強化、慢性期では医療区分2、3の重度の患者が80%以上でなければ病院として存続できない状況になっています。

その為、すべてのステージで重症の患者を数多く集め早く良くして在宅へ帰すという競争が始まっており、入院患者数と在院日数の減少から稼働率が低下、一般急性期病床の減少や回復期の地域包括ケア病床への転換、慢性期では院長先生のバーンアウトによる廃院や施設である介護医療院への転換が始まろうとしています。

特に私どもの高知県では病床が全国平均の2倍、療養病床は3倍と多く、人口が減少し重症の患者が限られることから全国に先駆けて大きな変化が起こっています。

もっとも衝撃的であったことは、来年の新卒の看護師の採用において近森病院附属看護学校の奨学生を7名も採用をお断りせざるを得なくなったことです。これは看護師さんの横の繋がりで、仕事がハードな急性期病院を辞めても楽に仕事が出来る次の就職先がないということが知られてきて、急性期の基幹病院を辞める看護師さんが半減し、それに伴い採用も減少したことと、何よりもアウトカム評価で看護師という国家資格を持っているだけでは採用されず、看護というマネジメントができアウトカムを出すことが出来る優秀な看護師が求められる時代の到来を意味しています。

この数年、目に見えて中小の一般病院の急性期医療機能の低下がはっきりしてきました。これは初期臨床研修医制度の導入により大学医局の医師派遣機能が無くなり、若い先生方が来てくれず患者と同様に医師も高齢化したことと、経営状態の悪化による時間外、休日の人件費の削減で、急性期医療機能が急激に落ちてきています。そのため、3連休などでは今まで以上に救急車の搬入件数や緊急入院患者が増え稼働率にも変化が起こっています。

こういう変化は高知の地域医療がこの数年で激変する予兆であり、近森会グループも時代の変化に応じて柔軟に変化し続けることが求められています。

私はこのような地域医療の変化は高齢化が進みベッドの多い高知県のみで先進的に起こっていることと考えていましたが、東京でも大学病院の勝ち組、負け組がはっきりし稼働率の著しく低下した大学病院も出ていますし、中小病院は全体に経営が厳しくなり、ビル開業も頭打ちになっています。都内でも新卒の看護師の就職は難しくなり中小病院に流れたり、労働環境の厳しい公立病院から医師が辞めていったり、北海道などの田舎の自治体立病院では給与カットも始まっています。

このような変化は経済界でも製造業が凋落しビッグデータを扱う情報産業が急速に発展したり、銀行の人員整理やコンビニ業界の売上減少、新聞の売れ行き不振や世界のゼロックスの経営悪化、超優良企業のトヨタや武田薬品も変わろうとしていますし、最近は日産のゴーン前会長の逮捕という衝撃的な報道もありました。大災害が多発する自然界だけでなく、人間界も経済界、産業界、医療界、共に何が起こっても不思議でない、激変の時代が始まったように思います。

そういう時代の変化に備えて、私ども近森会グループは10年以上前から松田病院や千屋崎病院を譲っていただき、着々と体制を整えてまいりました。7カ年計画で近森病院、近森リハビリテーション病院、近森オルソリハビリテーション病院の全面的な増改築工事を行い、これから20年、30年耐えうるハードを作り上げました。また、近森病院は急性期338床という中小病院で患者の受入れは医療センター、大学病院、日赤についで地域4番店にすぎませんでした。人口減少と少子高齢化で病院を統廃合し、病床を削減するという方向性とはまったく逆に、114床増床し急性期452床、総合心療センターの急性期精神科病床60床を統合し512床の大病院になっています。まさに逆張りの発想です。これにより救急車の搬入は1.4倍、入院患者は1.25倍になり、中四国で救命救急センターの救急搬送件数が倉敷中央病院についで2番目となり、入院患者数は高知医療センターについで2番目、眼科や耳鼻科などのマイナーな診療科を除いた生命にかかわるメジャーな傷病の入院患者数は高知県トップ、地域一番店になることができました。

ソフト面でも20年前から地域医療連携をすすめ、2003年には高知で初めて地域医療支援病院に承認されています。さらには2000年から心臓血管外科の開設と共にICUなどの重症病棟を整備し病棟連携も行ってきました。2003年には栄養サポートチームを開始することで本格的な病棟常駐型チーム医療がスタートしております。このように病院や病棟、スタッフの機能を絞り込むことで医療の質を上げ労働生産性を高め病院機能を整備してきましたし、先生方はじめスタッフみんなの労働環境ややりがいが飛躍的によくなってまいりました。

その一方で、病院が大きくなり医療環境も整備されてきたことで「自分がやらなくても誰かがやってくれるだろう」、「何も考えずに今まで通りの業務をするだけでいい」といった大病院病ともいえるぬるま湯体質に陥り以前ほど元気がなくなっているようにも感じております。

338床の中小病院のころは、若いスタッフが集まり小型エンジンにターボをつけてブンブン走り回って大変な活気がありました。このエネルギー溢れる時代の心を取り戻し活力ある近森会グループに変えるために、若いスタッフを積極的に登用し病棟や外来、各部署ばかりでなくワーキンググループや委員会でも実際に実践している若いスタッフが物事を決め実行できる体制が必要と考えています。

さらには今までも行ってきましたが、サービスを向上し救急や紹介、一般外来からの入院を増やし、診療単価を上げ、医療の質を確保しつつコスト削減など、今までの発想、例えば「お給料は年功序列で毎年上がるもんだ」、「祝日は休むもんだ」、「師長になったら定年まで師長なんだ」といった今までの発想にとらわれない取り組みを迅速、確実に実行することが求められています。結局、右肩上がりの時代から右肩下がりの時代に大きく転換したことと、今まで診療報酬という公的価格で医療が政府から保護されていたことが、この数年で大きく変わり、一般企業と同じ対応をせざるを得なくなりました。これからは、理事会で方針を決定し、ワーキンググループや委員会で若いスタッフの意見も取り入れ具体的な対応を決め、部科長会で最終決定し実行していきたいと考えております。

医師の働き方改革では、地方の救命救急医療は大きな影響を受けるといわれておりますが、キャップ制で時間外労働が制限され先生方の働き方も大きく変わらざるをえない時代を迎えています。交代制勤務や複数主治医制、当直医による病棟対応など、病院として対応することで先生方の労働環境の改善に繋げていきたいと考えています。ただ今まで身を犠牲にして高知の救命救急医療を支えてきて下さった先生方の「患者さんのために」という熱い思いが、今回の医師の働き方改革でビジネスライクに変わってしまうことを私は最も恐れております。

今までは先生方には自分の信じる良い医療を実践するようお願いしてきました。現在は、DPCデータに基づく各種指標や係数などで病院機能や実績が評価される時代になり、医療の標準化を図らざるをえなくなっています。多くの患者を効率よく治していく知恵を出す時代になり、診療形態も大きく変わってくると考えています。

時代が大きく変わり「今までの発想にとらわれない自己変革」が求められる時代になりました。医療の質を上げ、それを限りない経営改善で支え、高知の救命救急医療の基幹病院として県民・市民のために最後まで生き残り責任を果たしていきたいと決意しています。その為には「キャッシュフローを最も重視する経営方針」で必要に応じ投資の出来る病院経営を皆さんのご協力もいただき行なってまいります。

生き残る病院は大学病院のように大きい病院でも、繰り入れがいっぱい入る公立病院でもありません。自己変革を限りなく続けることができる病院こそが生き残れます。11月の部科長会から検討事項を真っ先に時間をかけて協議し、決定し、報告事項は特記事項のみとする体制に変更いたしました。近森会グループは常に変化し、無理・無駄・ムラを廃し、今まで以上によりよい病院に変わっていきます。先生方はじめ多くのスタッフの皆さん、地域のかかりつけの先生方、救急隊の皆さん、そしてなによりも近森会グループがお世話になっている多くの企業の皆さんとともにこれからも元気に歩んでいきますのでどうかよろしくお願いいたします。

ご清聴ありがとうございました。